それは僕にとって ひとり旅 だった。
19歳の終わりに敷かれたレールを歩いているだけだと感じ、何もしていないまま20歳になる気がしていた。
なにかしたいと思って一人で寝袋をもって出かけようと決め、
そのとき読んでいた本の作者に会いに行こうと思った。
東京から長野までの、特急に乗れば2時間足らずの距離であったけれど
初めて自分で決めた未知なる目的地はそんな近いトコロではなかった。
鈍行を乗り継ぎ、途中で一泊して、知らぬ食堂にはいり、知らぬ土地で眠った。
僕にとってははじめての旅だった。
2日かけて目的地についた。そこにはいわゆる知的障害者と呼ばれる人たちが自給自足で生活をしていて、寝食共に3日ほどお世話になった。朝は牛の乳しぼり、掃除、畑仕事。
朝食の後また畑へ出てと、日が暮れるまで農作業だ。新鮮だった。
地に触れ、生き物と接し、人と話をする。陽と共に起きて陽の下で動く。
こんな当たり前のことなのに、こんなにも感動できたことに感動した。
お世話になった最終日。本の作者と30分ほど話をすることが出来た。
その人は70前のおじいさんで目があまりみえない。
通された部屋の窓には暖かな陽がさしこんでいてその人はとても気持ちよさそうだった。
僕らははじめに挨拶を交わしただけでしばらく沈黙が続いた。
けれどそれはとても心地の良い時間で、鳥のさえずりや、風の流れる音が響いていた。
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